怨みに報ゆるに徳を以ってす(「老子」より)

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(訳文)怨みごとに対して恩恵で報いる

発端は、同僚に対して少しの悪感情を抱くというささやかなものであったかもしれない。ところが、1年、3年、更には5年と、その同僚と席を並べて仕事をしていけば、悪感情は日一日と積み重なり、やがて「怨み」となることがある。悪感情の段階であれば、自らの心の工夫で消し去ることができたかもしれないが、「怨み」となっては、心の奥底に粘着してしまい、いかなる手段をもってしても引き剝がすことは困難となる。

丁度、毎日僅か1ミリずつ累積していった堆積物が、何百年、何千年という時を経て、やがて地層になるようなものだ。強固な地層は、ちょっとやそっとでは、打ち砕けない。

私が属する経営コンサルティングの世界には、「組織風土改善コンサル」なるものがある。しかし、コンサルタントの手法をもって、仮に組織風土が改善できたような気分になったとしても、それは一刹那の感覚に過ぎず、怨みの感情を根本から除去しなければ、全てが元の黙阿弥となる。

怨みに対して怨みで報じる悪循環を、是非とも断たねばならない。

「怨みに報ゆるに徳を以ってす」という言葉は、蒋介石が日本の軍人を許した際に述べたことで有名だ。この気構えがなければ、怨みの感情を溶かすことは不可能であろう。訳文は「怨みごとに対して恩恵で報いる」であるが、「恩恵」などと大袈裟にとらえる必要はなく、いま貴方ができることから始めればよいと思う。それは、怨む相手に笑顔で挨拶してみることかもしれないし、怨む相手と数分だけ雑談してみることかもしれないし、会議の場などで怨む相手の発言に少しの共感の意を示すことかもしれない。

蛇足だが、昨今の緊迫した世界情勢を解決するにも、この「怨みに報ゆるに徳を以ってす」という精神こそが最重要であることを付言したい。解決策に王道はないのだ。