人、其(そ)の家に生まれ、其の道に入らば、先づ、其の家の業を修すべし、知るべき也(「正法眼蔵随聞記」より)

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(訳文)人、それぞれの家に生まれ、その家業の道に入るについては、まず、その家業を修め身につけなくてはならぬと知るべきである。

新社会人の皆さんは、新入社員研修も終わり、初めての部署に配属された頃だろうか。何が何やら訳が分からず、上司や先輩に言われたことをこなすのが精一杯といったところかもしれない。

就職活動を行っている学生さんは、企業から内々定をもらい、窮屈なリクルートスーツから徐々に開放されていく時期だろうか。

ところで、最近の若い方は、せっかく新卒で就職した会社をすぐに辞めるという。「せっかく」と書いたが、気持ちは分かる。私も辞めたいという気持ちを抱いたことがあったからだ。入社2、3年で辞めて行った同期社員もいた。

先輩面した不遜な物言いを許して頂ければ、入社した会社では、最低5年は働いた方がいい。理由は3つある。

私は大学4年生のとき謝恩会の幹事をやった。お世話になった先生方に往復葉書で招待状を出した。ある先生から頂いた返信には、所用で欠席することの詫びとともに、こんな言葉が添えられていた。「これから虚の世界から実の世界に入っていくのですね」。

近頃はインターンシップが盛んに行われているそうだが、やはり、卒業までの人生というものは「虚」の世界だ。会社に入って初めて「実」に触れることになる。これまで、そこそこの人生経験を積み、それなりの実力を兼ね備えてきたつもりでも、実社会ではさほど役に立たないことを思い知らされる。ときにはプライドをズタズタに切り裂かれる場面もあろう。

まずは「実」とは何であるかを知る必要がある。つまり、実社会というものが、どういう仕組みで成り立っているのかを理解しなくてならない。それは3年では足りない。5年はかかる。これが一つ目の理由。

二つ目の理由は、実社会がどういう仕組みで成り立っているかを知った上で、是非、達成感を味わってもらいたい。達成感とは必ずしも成功を意味しない。仮に結果が失敗で終わってもよいから、とにかく何かひとつの仕事を自分の力で最後まで成し遂げる。その充実感と爽快感を体験してほしい。入社1~2年目までは、ほぼ見習い同然であろうから、達成感を得るには、やはり最低5年はかかる。

最後の理由は、人間関係だ。社会には、完璧な組織など存在しない。良い人間もいれば嫌な人間もいる。貴方が人間関係に悩み、組織を飛び出したとしても、新たに入った組織でどうせ再び人間関係に悩むことになる。逆に、ずっと嫌な人間と対峙していると、不思議なことに「慣れ」というか「免疫」のようなものが出来上がってくるのを感じる。「はあ、人間なんて、所詮こんなものだ」という感覚。その感覚こそが、貴方の中に、どんな人間ともやっていける胆力が芽生え始めた瞬間であり、その胆力があれば、どんな組織でもやっていける。

入社して不本意な部署に配属された方もおられよう。不本意な会社からしか内々定を貰えなかった学生もおられよう。でも、嘆かないでほしい。

道元禅師は「其の道に入らば、先づ、其の家の業を修すべし」と言われた。運命の巡り合わせでたまたま所属することになった企業や部署を、貴方自身の修練の場と思い、是非、実社会の何たるかを知り、仕事で達成感を味わい、どんな人間とでもやっていける胆力を身に備えるまで研鑽されることをお勧めしたい。

お若い方々の益々の隆盛を願う。